安全性と利便性を秤にかけることは出来ない
福島第一原発事故から一年以上が過ぎ、いろいろなことが分かってきた。政府は放射能で汚染された土地や建物は除染によって元のように戻ると言い続けてきた。しかし、『除染』は、費用対効果を考えた場合、殆ど無意味と言っても過言ではない。
1986年、世界中を震撼させたチェルノブイリ原発の事故、30年近く経過した現在でも、周辺地域は未だに高線量の放射能で汚染されたままだ。汚染された広大な地域は、政府によって管理され、放射能による動植物への影響を観察する研究拠点となっている。
政府や県はそのような現実に目を背け、早期の住民の帰還を目指している。そこには、避難民に対する賠償を極力抑えようとする意図しか見えて来ない。しかし、仮に住民が納得して早期帰還が実現した場合、それ以降の新な放射線被ばく問題が浮上することも想定しなければならない。果たして、住民の早期帰還は本当に住民のためになる政策なのか?
政府や県は、頭を切り替えて考えてみる必要がある。新な放射線被ばく問題がでてくるようでは、原発被災地の復興はない。
今や国内の稼働原発はゼロになった。今後、電力不足や再稼働の是非が争点になると思うが、安全性と利便性を秤にかけることは出来ない。最も重要なのは以下の視点だ。
『脱原発依存』へ向けての重要な視点
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- 万一、事故が発生した場合には、福島と同様の惨状となるが、政府や東電は被災者に手厚い保護や賠償が出来ているか?
- 福島第一原発事故によって放射能汚染された土地はどうするのか、「除染」と言うが何年で元に戻るのか?
- 福島の事故を検証した上で、地震や津波による影響について十分な対策ができているか? 福島第一原発は震度6強の地震の後、津波に襲われ電源喪失が全ての事故の原因になっているとされた。しかし、立地によっては直下型地震の可能性もある。その場合は配管等の破断の可能性もあり、電源喪失以上に厄介なことになる。
周辺の活断層の把握と地盤データに誤りはないか。 - 万一、事故が発生した場合、電力会社任せとせず、政府主導の特別チームで事故の収束を図る体制は出来ているか?
- 事故が発生した場合、電力会社、政府、自治体、周辺住民全てにおいて、シビアアクシデント対策が、出来ているか?
- 電力不足に対する応急的対策と、代替エネルギー又は再生可能エネルギー等の中長期的な対策は策定できているか?
- 原発停止による、立地自治体の税収減や関連産業の衰退などの経済的不利益に対し、新規事業の創出による雇用対策など別な方法で、埋め合わせできるか?
- 増え続ける使用済み核燃料の最終処分はどうするのか?
このままでは、各原発が使用済み核燃料で溢れ、稼働も困難になる - 高速増殖炉実用化の見通しが立たないまま、核燃料サイクル構想を続けるのか?
維持費に膨大な費用が掛かる高速増殖炉「もんじゅ」を維持し続けるのか?
完成・運転の目途も立たない六ヶ所村核燃料再処理施設を維持し続けるのか?
菅首相が退陣を間近に控え打ち上げた「脱原発依存」、言うは易く行なうは難しの難題だ。退陣とともに消えてしまうのか。それとも政策として次期政権に引き継がれるのか。
この時既にドイツのメルケル政権は「2022年末までに原子力発電所を全廃する」と決断していた。メルケル首相自身が原発推進派で、前政権が廃止を決めた後、再開に踏み切ったばかりであった。ドイツは日本の大震災に伴う原発事故の後、原子炉安全委員会(RSK)と社会学者や哲学者で構成する「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の二つの機関に意見を求めた。RSKが、航空機の墜落を除けば原発の安全性について問題なしとしたが、メルケル首相は、倫理委員会の提言書の方を重視し、脱原子力に踏み切った。これは、原子力リスクの分析を技術者だけに任せてはいけないとするドイツ人の価値判断である。彼らは「今回の事故がハイテク大国・日本で起きたことを特に重視している」とし、「大規模な原子力事故はドイツでは起こり得ない」という確信を持てなくなったと言うことだった。
もう一つ国イタリアは、1987年の国民投票によって、既に原発からの決別を決定していた。しかし近年、発電設備を増強するために再び原子力発電所の建設を検討してきた。しかし現状は、既に発電設備能力はピーク時の必要電力を上回っていて、増強の必要性は高くないにもかかわらず、原子力推進へ傾き、自然エネルギーへのインセンティブも打ち切られた。これに対して国民はNOを突き付けた。
長く険しい道程への決断
「脱原発依存」に対する明確な意思表示もないまま野田新政権が発足した。この政権は小泉政権同様、狼煙だけを上げ、中身は人任せ・成り行き任せのなし崩し政策遂行型らしい。
国民と向き合うわけでもなく、マスコミを誘導しTPP参加に向けた協議の開始や韓国への5兆円スワップ保証、IMF資金増強に600億ドルの拠出、ASEAN首脳会議で2兆円規模のインフラ支援などの円バラマキと消費増税に突き進む姿は、民主主義を形骸化し国民を欺き重荷だけを背負わせ、責任も取らずに去る者の姿を想像させる。それでいて本人はチャッカリ歴史が評価してくれると思っているに違いない。
戯れごとはさて置き、2011.05.31ニューヨーク・タイムズが「日本の原子力依存、カネと雇用で盤石な原発の現実」という記事に取り上げられるように、過疎に悩む地方が経済発展を求めて原発建設を受け入れてきた。1974年に田中角栄元首相が導入した電源三法により、消費者が支払う電気料金の一部が電源開発促進税として集められ、原発に隣接する地方に流れる仕組みができ、補助金で過疎地が息を吹き返す。その結果、原発誘致が中央・地方格差の是正措置の一環となった。一度原発を建設すると、相互依存関係ができ後戻りができなくなる。美味しそうなアメ(政策)に魅せられ、一種の依存症が作り出されてしまった。
「脱原発依存」の推進は、菅首相の再生可能エネルギー利用の推進だけでは済まない。野田内閣が行っているような子供だましでは国民の信頼は得られない。
- 先ず、「核燃料サイクル構想の撤回と脱原子力の目標年限を定める」ことだ。多くの原発が耐用年限を迎える2030年が一つの目途になると考えられる。
- 次は、以下のようなしっかりした「エネルギー総合政策」を練り上げ、一切の矛盾をなくし、国民の信頼を得ることだ。
- それには、福島の事故原因の完全な究明(人為的問題、技術的問題、チェック機構は機能していたか?、技術的不備の把握状況とその改善が図られたか?)と事故によって起きた物理的被害、経済損失、被災住民に与えた肉体的かつ精神的影響、被災者が受けた被害に対する賠償の妥当性、環境への影響、元の環境を取り戻すために要する時間とコスト、これら全ての検証が必要である。そしてそれらを全て公表した上で、それらに矛盾しない「エネルギー総合政策」としなければならない。
その上で、「エネルギー総合政策」に則り、新規の原発建設「0」を宣言し、安全性が確認されたものから目標年限内に限った再稼働を考えるべきである。 そして、老朽化や技術的な問題があって、ストレステストをクリアできないものから順番に稼働を停止し、脱原子力へ向けての一貫した廃炉への仕組みづくりで、立地自治体周辺の雇用の安定と関連産業の支援を行うことが必要である。
- ≪エネルギー総合政策≫
- 直近の電力不足に対する応急的対策
- 東京電力の破たん処理と発送電分離も含む電力供給システムの抜本的な見直し
- 原発再稼働のためのストレステストの信頼性の向上と稼働条件のクリア
- 従来の政府原子力委員会から保安院および電力会社、経済界出身スタッフを除外した批判的研究者および知識人を半数以上入れた検討チームで精査
- 周辺の活断層の把握と地盤データ再調査を踏まえ、地震や津波による影響調査を原子炉本体だけでなく施設全体の設備について精査
- 圧力容器の脆性遷移温度の変化の上限を安全側に定めて耐用年限の基準とし、その他の周辺設備に対しても更新の要否とコストバランスを総合的に考慮して稼働可能年限を決定
- 使用済み核燃料の最終処分に至るまでの期間、電力需要量に応じた電力需要自治体内での使用済み核燃料の仮置き場の設置同意の取り付け
- 事故が発生した場合の政府主導の特別チームで事故の収束を図る体制の整備とその場合の、電力会社、政府、自治体、80km圏内の周辺住民全てが参画する、シビアアクシデント対策の整備
- 代替エネルギー又は再生可能エネルギー等の中長期的な対策の策定
- 廃炉へ向けて取り組みの決定
- 原発停止による、立地自治体の税収減や関連産業の衰退などの経済的不利益に対し、新規事業の創出と、使用済み核燃料の処分・原発の解体除染・跡地の再利用までを一貫して行う仕組みづくりで、立地自治体周辺の雇用の安定と関連産業の支援
- 使用済み核燃料の最終処分方法の模索・決定