『10万年後の安全』10万年後の未来に対し責任を持つことは出来ない。
ようやくわが国でも原子力バックエンド問題が議論され始めた。わが国は核燃料を増殖させる核燃料サイクルを目指してきたため、核燃料サイクル計画の破綻を容易に受け入れられず、足踏み状態を続けてきたためだ。
基本的に自国で発生した放射性廃棄物は、発生した国で処分するのが原則である。これまで世界各国で様々な処分方法が検討されてきた。現在では、地層処分が最も現実的な方法であるということが世界各国の共通した考え方となっているものの、未だ原子力バックエンド技術の確立には至っていない。
北欧のスウェーデン、フィンランドが世界に先駆け、原発の使用済核燃料(高濃度放射性廃棄物)の最終格納処分場の建設に踏み出した。
スウェーデンは2009年に実施主体が格納処分施設建設予定地として、エストハンマル自治体のフォルスマルクを選定し、2011年3月に施設の立地、建設許可を申請した。
フィンランドは1977、1980年に運転を開始したロヴィーサ原子力発電所1、2号機と1979、1982年に運転を開始したオルキルオト原子力発電所1、2号機の計269.6万kWに、2013年稼働予定の3号機160万kWの計429.6万kW、更にオルキルオト原子力発電所には4号機の計画もある。これらの原子力発電所から出る全ての使用済核燃料を最終格納処分地に保管すると言う計画である。
フィンランドは、1994年に原子力条例を修正し、国内の全ての核廃棄物を自国内で格納処分することを決めた。1999年には実施主体が格納処分施設をオルキルオトに選定し、2001年の国会承認によりオルキルオト原発から数マイルの距離にある花崗岩の地下岩盤がフィンランド国内の使用済核燃料の長期地下格納処分施設として決定された。その後、2004年に地下施設の建設を開始し、建設と並行して許可申請に必要な調査も開始された。2012年には格納処分施設建設許可申請を予定している。「オンカロ」(フィンランド語で「隠し場所」)と呼ばれる格納処分場は、太古の岩盤層を深さ500mまで掘り下げた先に作られ、2018年に試験操業および試運転を始め、2020年には実質的な使用済核燃料の格納保管業務を開始する。この格納保管施設が、国内で排出される使用済核燃料で満たされる約100年後には、入口を完全封鎖するという。
しかし、この地層処分は、あくまでも放射性廃棄物を保管するだけで、手放しで安全性が担保されるわけではない。核物質の崩壊熱による温度上昇の影響、容器の耐熱・腐食などについての安全性、放射線の遮蔽、格納施設内の環境変化を常時許容限度内に納めることが可能か、また、地震や断層変異などに対するの問題が付きまとう。
ドイツでは1970年代から調査されてきたゴアレーベンの最終格納処分場が2000年に凍結された。「ゴアレーベンのように岩塩層が地下水と接触している場所では、数百年も経ない間に高温の放射性廃棄物容器が岩塩層を溶かし、地下水を汚染する危険性が高い」と多くの専門家が指摘していたからである。事実、最も安全とされてきた岩塩層の放射性廃棄物格納処分場は、僅か数十年で地下水が浸入し容器のドラム缶が激しく腐食し、漏れ出した放射性廃棄物が地下水を汚染しドラム缶の回収を余儀なくされた。
放射性廃棄物が出す放射線が、生物にとって安全なレベルに下がるまで、欧州の基準では少なくとも10万年かかるとしている。また、オバマ政権誕生後の2009年米国政府は、「高レベル放射性廃棄物は、100万年監視しなければならない」と発表した。
その間、高温の放射性廃棄物容器を一定条件下に置いて冷却し続けることなど出来るものではない。地震などにより地盤に亀裂や断層変異が生じ、地表に露出してしまう危険性も否定できない。わが国のように地震災害が絶えないような国土には地層処分できるような場所さえ見つけることは出来ない。何よりも、人類は有史以来、数千年を経たに過ぎない。10万年後の未来に対し責任を持てる筈がないことは明らかであり、人類が消滅した後までも負の遺産を残すことなどあってはならないことである。
最終処分場としての可能性、核廃棄物を「地殻下のマントル内に還流」せよ!
放射性廃棄物の最終処分には、もっと本質的な検討が必要である。技術が伴わないからと言って安易な解決法に走ってはならない。
日本列島は北米プレートとユーラシアプレートの二つの大陸プレートに乗り、それぞれ東北日本・西南日本、その境界領域がフォッサマグナと呼ばれる異質の地層構造を持つ中央地溝帯となっている。フォッサマグナの厚さは、平野部で地下約六千、山地部で約九千メートルにも及び新生代の火山岩と堆積岩によって埋積されている。東縁は新発田小出構造線及び柏崎千葉構造線、西縁は糸魚川静岡構造線(糸静線)と考えられている。この大陸プレートの動きや地球上の地殻変動は全てプレートテクトニクス理論で裏付けられる。
日本の東及び東南には、太平洋プレート及びフィリピン海プレートの二つの薄い海洋プレートがあり、千島海溝及び日本海溝、相模トラフ、南海トラフを収束型境界として、北米プレートとユーラシアプレートの二つの大陸プレートの下部にめり込むように地球深部のマントルに引き込まれていく。また、フィリピン海プレートと太平洋プレート間にも収束型境界としてマリアナ海溝がある。地球内部の熱は、その大半が放射性元素の崩壊熱によると言われている。地球深部にひき込まれた地殻プレートはその熱によって個体であっても流体に近い挙動を示し、マントル対流が起きている。温度の高いマントルが上昇してくる場所は発散型境界の海嶺となり、地表においては海嶺から海溝に向かって海洋プレートが動いている。
このマントル対流は、地球表面の大陸を動かしてきた。2〜2.5億年前のパンゲア超大陸から分裂を繰り返し現在の地球が造られ、今後も動いていく。こうして、地球表面の大陸は約4〜7億年かけて離合集散を繰り返すことになると言われている。研究者の報告では地質学的証拠から過去3回の超大陸を確認していると言う。地球上の地震や火山活動の殆どは、マントル対流の収束型境界におけるプレート間の摩擦によって蓄積されたエネルギーが解放されることによって引き起こされている。
間違いのない事実は、収束型境界においては海洋プレートが大陸プレートの下にめり込み地球深部に引き込まれていくことだ。この引き込まれた海洋プレート内部でも大規模な断層運動が起こり、地震が発生することもある。しかし、既にこれらのプレートはマントル対流によって地球深部に向かっている。再度地表に戻るには、マントルの最深部で地球の核と接し、3000℃程度まで加熱され、熱膨張による比重低下がなければ地表面に上がってくることはない。また、マントル内は常時放射性物質の崩壊が起こっており、新たに放射性廃棄物が投入されたところで、その影響は皆無である。
結論から言えば、プレートテクトニクス理論の収束型境界から、マントル対流によって沈み込む海洋プレート内に放射性廃棄物を挿入し、「地殻下のマントル内に還流」 させることが最も有効な方法となり得ると考えられる。日本海溝底から数キロメートル地下の海洋プレート下層部に放射性廃棄物を挿入する方法である。
わが国には深海潜水技術がある。また、海底下数千メートルにある地層まで掘進することが出来る深海底掘削技術がある。現在は海洋研究や地震、資源などの調査探究目的の技術であるが、資源回収などを実用化するためには欠かせない技術であり、世界最先端を行っている。これらの技術を総動員すれば、調査研究も含め、10年もあれば放射性廃棄物の最終処分を開始することができよう。SFのようだが、海底作業用の移動ステーションを設ければ、海底資源回収と放射性廃棄物最終処分の基地として活用でき、一石二鳥である。
技術的な問題をクリアし安全、且つ創造的な方法を模索せよ!
わが国の高レベル放射性廃棄物処理研究の第一人者である、元内閣官房参与・田坂広志 多摩大学大学院教授は、全国の原発サイトの「使用済み核燃料貯蔵プール」は、もし原発を順調に再稼働できても、平均6年で満杯になる状況にあり、青森県六ヶ所村の再処理工場の貯蔵施設も、すでに満杯近くなっており、核廃棄物の最終処分問題の解決法を見出さない限り、原発は、早晩、止めなければならなくなる。
この問題は、「脱原発・原発推進」のいずれの立場であるかに関わらず、直視すべき「厳しい現実」である。また、昨年9月11日、日本学術会議が内閣府原子力委員会に対して、「地層処分の10万年の安全は、現在の科学では証明できないため、我が国において、核廃棄物の地層処分は実施すべきではない」と明確に提言した。
政府はこれまでのように、「国内で地層処分を実現する」という政策一本槍ではなく、種々の可能性を考慮する必要がある。核廃棄物の最終処分については、国際社会全体が責任を持って最終処分の方策を考えるべき問題であり、本来、「各国独自の制度」によって実施するべきではなく、「国際的な共同体制」によって実施することが望ましいと言う。その考え方には同意できるので上記の「最終処分場としての可能性」を提案をしてみた。
日本列島の陸地で断層運動を生じるような硬くてもろい岩盤があるのは、地下十五〜二十キロメートル程度までで、陸域の地震は、殆どがその部分で起こる。
現在、日本全国で約二千箇所の活断層が確認されており、地表面からは見えず断層面の上端が地表から1キロメートル以下の深度まで達している伏在断層も活断層の範疇に入るため、確認されていない断層がどれほどあるのかは想像もつかない。現実問題として、国内にはオンカロのような地表から数百メートルの比較的浅い部分に安定した地層が存在するなどと言う想定自体、空想の産物でしかなく、「国内での地層処分」はまず不可能である。
また、「海外での地層処分」は開発途上国や未開発地域を想定していると思われるが、現状では人が寄り付かない地域であるだけで、安全が担保されている訳ではない。地球上のいずれの地域であろうと、そこで放射能汚染が発生すれば、地下水系や河川を経て海洋まで汚染が広がり、生態系にもに重大な影響を及ぼすことになる。全くの論外である。
更には「消滅処理」や宇宙船に積んで燃え盛る太陽に送り込むと言う「宇宙処分」、そのいずれにしても、事故などによって大気中に放射性物質が放出される危険性を孕んでおり、まさに「天に唾する行為」と言えよう。
核種変換技術は、核廃棄物処理問題解決の万能薬とはなり得ない!
近年、核廃棄物の地層処分に変わり、プルトニウムやネプツニウムなどの長半減期の放射性核種のうち、プルトニウムを除く超ウラン元素(マイナーアクチノイド:MA)を特殊な原子炉で燃やし、短半減期の放射性核種に変換するという「消滅処理」が有望視されてきた。
基本的には、高エネルギー中性子を高レベル放射性廃棄物に含まれるマイナーアクチノイドと核分裂反応をさせて無害又は半減期の短い元素に核種変換して消滅処理をする方法である。高エネルギー中性子を発生させる方法としては、高速増殖炉や核融合炉が考えられるがいずれも実用化の見通しは立たない。また、陽子加速器を使用し、高エネルギー陽子による核破砕反応とその2次的に発生する高エネルギー中性子を利用して核反応を促す方法と、電子線加速器を利用し、光核反応を促し消滅処理する方法だが、理論的にも技術的にも全く確立されていない。しかも、全てが都合の良い短半減期の放射性核種に置き換わるという保証はなく、想定外の結果が生ずる可能性を否定することはできない。
しかもこの核種変換技術は、核燃料サイクルの中で、完全に不要となるものだけを処理して、最終処分する廃棄物の量を少しでも減らそうとする試みであり処理量も限られ、核燃料の再処理と高速増殖炉の稼働が前提となっていた。核燃料サイクルが破綻した今、最低でも核燃料の再処理とプルサーマル運転を前提としなければ、超長半減期のウランやプルトニウムまで処理できる程の能力はない
<高レベル廃棄物処分としての加速器駆動核変換技術の現状と展望>
核廃棄物の最終処分には安易な道を選ぶことなく、日本の英知を結集して技術的な問題をクリアすると共に、安全、且つ創造的な方法を模索すべきである。
『生命の宝庫である私たちの地球は、大いなる天と地によって守り育まれている』
地球外部からの宇宙線を遮る電離層は、太陽の恵みをもたらし、限りなく澄んだ空は宇宙の営みを私たちに示し、人類に深い思慮を求めている。
地球中心部が高密度に圧縮され放射性元素の崩壊を惹き起こし凄まじい放射線と熱を放出している。しかし、足元の地殻はそれらを遮り大地の恵みや温泉など地上生命体を癒し育んでいる。これほどまでに生命を慈しむための機能を持つ地球、全宇宙を見渡しても稀有な星である。時折、地表面には地震や火山活動、様々な気象現象など自然の脅威を見せつけることもあるが、これらは環境適合性を誤まり暴走する地上生命体への戒めなのかもしれない。この尊い地球環境を守れずして私たちはこの地球に生きる資格があるのだろうか?