国家ビジョン
国民の人気がひときわ高かった小泉政権も、「自民党をぶっ壊す」、「構造改革なくして景気回復なし」、「聖域なき構造改革」と言ったが、ここには、わが国の未来をどのようにするのかという『国家ビジョン』はなく、「三方一両損」のような妥協と、労働者派遣法の改悪や自衛隊のイラク派遣など、国民合意を経ずに済し崩しに基本政策を変更する政治が横行するようになってしまった。
『国を支える官僚組織』があれば政治家は要らない?
日本の戦後政治は、陸・海軍その他の関連官庁や「官庁の中の官庁」とも呼ばれた内務省の解体を除けば、戦前の官僚組織に多少の変更を加えただけでほぼそのまま引き継がせ、その後の社会的変化や要請に対応するために利権構造を織り混ぜながら、制度や組織を加算的に積み上げ、膨大かつ複雑怪奇な官僚組織を形成し現在に至っている。
国家は、政治体制が変わろうと、国家ビジョンが有ろうと無かろうと、また政治家が無能であっても、それなりに存続していく。要は従前の手続きを踏まえた国家運営は官僚だけでも十分に機能する。政治家は法に定められた手続きだけを担い、官僚の仕事や国民生活の邪魔さえしなければ良いわけである。官僚が作った予算を通し、新しく決めなければならないようなことをしない限り、国は回って行く。
政治家に「国益とは?」と問うても満足に応えられるはずはない。同様のことを官僚に問えば答えは明白である。「組織自体が必要とされること」である。彼らにとっては、「国益=省益」でしかない。しかし、それは本音の話であり、彼らは別な尤もらしい答えを用意している筈だ。
非常時こそ政治主導が必要
国家運営において、平時は状況を注視するだけで済むかも知れない。しかし、非常時こそ政治主導が求められる。3.11東日本大震災とそれに引き続く福島第一原発事故の対策においては、その影響を最小限にとどめ、復興対策を地方の意見を重視する形で機敏にまとめ、冷え切った日本経済を拡大に導くきっかけを作るべきであった。
「天災」への対応の拙さで「人災」をさらに積み重ね、事態を深刻化させないことが重要である。それには、予め危機対応などの非常事態対応策を含め、政策の優先順位を決めておくことが必要であり、それこそ、『国家ビジョン』から自動的に導き出されるものである。先ず『国家ビジョン』があり、そこで初めて「何のためにどうすれば良いか」が決まり、そのための「制度」や「組織」のあり方も自動的に決まるはずである。
しかし、現実は後先が全く逆で、「先ずは組織有りき」で、優先されるべき対策を打とうにも、幾重もの障壁が立ち塞がる。革命でも起きない限りこれら従前の組織が全て解体され、一新されることはない。
『国家ビジョン』と、そこから導かれる目標
3.11東日本大震災の経験を経て、国民は『国家ビジョン』を持たない政府が、国民のために何も為し得ないことを思い知らされた。
「日本は確立した『国家ビジョン』を有し、そこから導かれる目標を実現するために制度や組織を再編し、国際社会の中で積極的な地位を確立していかなければならない。」と、今改めて思う。
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- 『国は、国民の生命と安全安心の生活を保障する。全ての国民は、自身のアイデンティティを確立し、かつ、個の能力を十分に発揮して民主的で活力ある国家を実現し、自然との共生や国の枠組みを超えた人々との共生を可能にする社会を構築する。』
これなら、政治主張の違うどのような勢力であろうと反対する者はいない。
次は「どのような価値観を持って、国の目標や役割を発展的に実現させるか?」である。この部分では、政治主張が異なればその方法(政策)も変わってくる。
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- 民主主義が機能しない白紙委任の政治をこのまま放置して良いのか?
- 政府の情報隠蔽、マスコミの偏向報道、国民は何を信じたら良いのか?
- 国は自己保身と利権者や経済最優先の政策ばかり、国民を守る気はないのか?
- 教育の基本を『自己の確立』におき、同時に『風土や伝統』に関する理解を深め、『日本および日本人のアイデンティティ』を構築すべきではないのか?
- 老齢基礎年金のみとし、無年金の解消と所得による支給制限を設けるべきだ!
- 所得比例年金は不公平だ。直ちに政府管掌を止め、自己責任方式とすべきだ!
- 抜本的医療制度改革で、医療費増大に歯止めをかけ、国民負担を軽減すべきだ!
- 老齢基礎年金額を上回る生活保護は不公平、現物支給を原則とすべきだ!
- 無収入の資産家が援助を受けられず餓死、法的支援が必要だ!
- 資源、エネルギー、食糧の海外依存体質はこのままで良いのか?
- 市場拡大路線の推進で輸出依存の産業構造を維持し続けるのか?
- TPP≠自由貿易。国益よりも多国籍企業を利するだけのパワーゲームだ!
- 経済協定や領土問題、日本の国益を守る政治が行われているのか?
- 外交力の向上を目指す取り組みは行われているのか?
- 国家主権の侵害等に対応する法制度は不十分ではないのか?
- 領海警備や国土防衛は不十分ではないのか?
先ずはこれらの不合理を解消して国家ビジョンの実現に向けた、法整備と政治システム(立法・行政・司法)の適正化を図り、危機対応や安全保障に加え、治安、外交、通貨と財政運営、経済・産業政策、社会保障など基幹政策をまとめなければならない。
国造りの基本を、『日本および日本人のアイデンティティを確立し、共生の道を探る。』 とし、日本的価値観、技術、ビジネスモデルを世界に向けて発信することが大切である。