憲法前文:世界における日本のアイデンティティ
戦後のわが国は、明確な指標を定めることなく、経済利益のみに重点を置いてやってきた。国際社会における役割分担も金銭負担のみで、総合的な役割を果たせず今日に至っている。これは戦前の偏った軍国主義に対する反動として生まれた安易な路線選択であった。独立国家としてのアイデンティティをどこかに置き忘れたままの国作りをしてきたのである。その結果、わが国への国際社会の期待は経済面に限られ、国際社会でのわが国の発言力はまだまだ小さい状態である。
激動の二十世紀において、欧米列強とは一線を画し、大東亜共栄圏の理想を掲げ戦争に突入し、悲惨な敗戦と核兵器の被爆体験までした国は日本をおいて他には存在しない。この体験を最大限に生かし、二十一世紀の日本は国際社会において、世界及び地球全体を視野に入れた平和共生社会の実現にリーダーシップを発揮していかなくてはならない。
また、戦後の経済復興は海外諸国が目を見張るほどの進展を成し遂げ、世界第二位の経済大国となり、技術や医療の進歩も目覚ましく、今や技術大国で世界一の長寿国でもある。その結果、公害や環境破壊さらには世界に先例のない高齢化社会が進み、わが国はその対策に国を挙げて取り組み、既に克服したもの、道半ばでも光明を見い出しつつあるもの、これから挑戦するものと、世界に先駆け成功や失敗を経験し、ノウハウを蓄積し続けている。
他の国々の人々には知り得ない体験、世界に先駆けて挑戦すべき目標の存在、それらを克服すべく努力して得られた成果、これこそ世界が等しく共有できる財産でもある。これらは世界に先例を示すことでもあり、日本および日本人のアイデンティティでもある。
そのためには、前文において日本は独自のアイデンティティを持つ民主主義国家であることと、二十世紀における悲惨な戦争への反省から、不戦の決意を明確にすること、平和共生社会の実現のためにはあらゆる面において国際協力を惜しまないこと、世界に範をなす平和共生社会を国内外で実現することを誓うことが必要である。
正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求
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- 独立国として、主権者たる国民による国民のための政治を実現する。
- 個の尊厳の前提となる自己管理、自己責任の概念を醸成する環境づくりを進め、権利と責任負担を明確に規定し、平和共生と成熟した自由平等社会を実現する。
- 生活環境を良好に保つために、地球的規模での自然環境や生態系の保全と、資源の適正利用等についての国民の努力と国際貢献を行う。
- 過去の歴史の反省から、独立国家固有の権利である自衛を除き、あらゆる戦争を放棄する不戦の決意を表し、世界のあらゆる地域に対する積極的な平和貢献を行う。
- 唯一の核の被爆国として、核兵器・生物化学兵器廃絶、世界軍縮推進へ向けて不断の努力を続ける。